失って残るもの。

久々な気がする。

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

旅行先の岡山で目に入って購入した本。前に書こうとした話に、筋が似ている部分があって、思わず買ってしまった。
「最後の物たちの国」に行って連絡が取れなくなった弟を探しにでかけた”私”が、”貴方”に向けて書いた手紙の形式。
退屈な人には退屈でしかない、そう言った類の本だと思う。なにせ、最後の物たちの国では、全てのものが失われていく。それは”目的”にも当てはまる。
けれど、失われて失われてそれでも残るものが、確かにあるのだ。
物語の中の国では、全ての物が失われつつある。入国はできても、国の外に出ることは出来ず、物の価値は不安定で、恐ろしいことが平然と行き交っている。それは管理されて、あるいは恣意的に、そうなっているのではない。権力者たちですら失われている状況に巻き込まれているし、そうなった原因は特に明言されていない、もしくは存在しないのだった。
そして、この国で子供は生まれない。

そういった状況であるために、この国で必要なのは「居場所」と「仕事」なのである。”私”は居場所と仕事で、3つの転機を得る。
そのどれにおいても、”私”は人と会い、人の愛や善性に触れる。しかしそれが街の状況によって、次々と失われていくのだった。


物は失われていく。しかし、すべてを失わせるのもまた、困難なことだ。病気、災厄、そむけられない事情、大事な物を失うことが、この国ではとても簡単に行われてしまう。
それでも、ただ失われ、そこで完結してしまうものなど現実にだって無く、それはこの本の中でも同様。失われても、物や思いは残る。残されたものもいずれは失われるとしても………そのあいだには別の何かが生まれてくる。
そういうことを、展開で思わせるのが良いな、とおもいました 。