風の中に一人

多和田葉子 文字移植

文字移植 (河出文庫文芸コレクション)

文字移植 (河出文庫文芸コレクション)

私たちはだれもが一人きりだということを、
たぶん本当はだれもが知っている。

言葉を話すというのは社会的行為で、
それをすることで人は一人ではなくなるという。
しかし環境が違えば言葉は通じなくなり、
言語は多く分かれている。
社会も、言語も、環境も、そして読んでいる本とさえ、
私たちは本当に通じ合うということが、
おそらくはない。


主人公が翻訳者というのは、
この話の要点をついていると思う。
翻訳者の主人公に対して味方するものはだれもいない。
翻訳の作者でさえ、せめて寄り添うことができても、
最後翻訳者はバランスを取ってしまうのだろうと思う。

最後本の中の人物にさえ裏切られ、
心折れかけあきらめようとしても、
外に出そうという気持ち。
たぶんそれがなんか大事で、
なにかある、のだと思います。